【才能は不要】売れない新人営業は「量質転化の法則」を知らないだけ
はじめに:すべての新人営業がぶつかる「最初の壁」の正体
こんにちは。営業組織の戦略設計に携わっている筒井です。
毎年、多くの期待と少しの不安を胸に、新しいメンバーが営業の世界に飛び込んできます。そして、そのほぼ全員が、キャリアの最初の3ヶ月で同じような壁にぶつかります。
「毎日100件以上電話をかけているのに、アポイントが全く取れない…」 「勇気を出して商談に臨んでも、お客様に全く響かない…」 「日に日に積み重なる上司からのプレシャーで、もう自信がない…」
こうした状態が続くと、多くの新人は「自分には営業の才能がないのかもしれない」「センスがないから、この仕事は向いていないんだ」と、あまりにも早く結論を出してしまいがちです。
実は、このサイトの運営を手伝ってくれているアシスタントの美咲さんも、かつては全く同じ壁にぶつかっていました。 彼女も私の指導のもと営業キャリアをスタートさせましたが、初期の頃は思うように成果が出ず、まさに「自分には向いていない」と自信を失いかけていた時期があったのです。しかし、彼女もまた、これからお話しする「ある法則」を愚直に信じ、実践したことで、今や誰もが認めるトップセールスへと成長を遂げました。
もし、この記事を読んでいるあなたが彼女と同じように感じているなら、私が毎年、新入社員の入社式で必ず伝える、たった一つの真実をお話しさせてください。
断言します。キャリア初期の営業で結果を出せない最大の原因は、「才能」や「センス」の欠如ではありません。それは、あまりにもシンプルですが、「圧倒的な量」の不足、ただそれだけです。
特別な才能を持つ一握りの天才を除き、成果を出し続けるトップセールスと、伸び悩む営業担当者を分けるのは、生まれ持った能力の差ではなく、「行動量」から得られる「検証回数」の差です。
その全ての土台となる考え方が、「量質転化の法則」です。
本記事では、私自身の失敗談や、これまで300名以上の営業を育成してきた現場での知見をもとに、凡人が非凡な成果を出すための唯一の道筋、「量から質へ」と進化するプロセスを、具体的かつ徹底的に解説します。
量質転化の法則とは?営業における本当の意味
まず、この法則の定義から確認しましょう。
「量質転化の法則」とは、ある行動を一定量以上、意識的に繰り返すことで、ある一点を境に、それが質的な変化となって現れる現象を指します。
これは、あらゆるスキルの習得に共通する原理原則です。 プロ野球選手は、何万回という素振りの中から「自分のスイング」を見つけ出します。ピアニストは、何万回という鍵盤のタッチの中から「魂を揺さぶる音色」を掴み取ります。
そして、これは営業という仕事において、よりダイレクトに、より残酷なまでに当てはまります。
- 一定数のアポイント電話を繰り返すことで、無数の「断られ方」のパターンを経験し、どの言葉が相手の心を閉ざすのかを肌で学ぶ。
- 商談の数を数多く経験することで、「お客様の反応パターン」がデータとして蓄積され、表情や声のトーンから本音を読み取れるようになる。
- 膨大な数の提案を積み重ねることで、小手先のテクニックではない、自分だけの「勝ちパターン(型)」が確立されていく。
つまり、「質が高い」と言われる成果(=センスのある営業)に到達するためには、その前提条件として、誰にも真似できないほどの「圧倒的な量」をこなすフェーズが不可欠なのです。質は、量という土壌からしか生まれない果実なのです。
なぜ新人営業は「質」より「量」を追求すべきなのか?3つの理由
「質を意識しろ」と指導するマネージャーもいるでしょう。しかし、キャリア初期においては、それは極めて危険なアドバイスです。なぜなら、新人が量をこなすべき明確な理由が3つあるからです。
1. 営業としての基礎体力、「精神的な筋力」を鍛えるため
スポーツ選手が最初にやることは、高度な戦術理解ではなく、地味な走り込みや筋力トレーニングです。なぜなら、試合の最後まで戦い抜くための基礎体力がなければ、どんな優れた技術も宝の持ち腐れになるからです。
営業も全く同じです。 新人営業がまず身につけるべきは「営業体力」です。
これは、単に長時間働けるといった物理的な体力ではありません。お客様に冷たく断られても、次の電話では笑顔で話せる「精神的な回復力」。上司に叱責されても、それをバネに行動できる「ストレス耐性」。月末のプレッシャーの中でも、パフォーマンスを維持できる「胆力」。
これらの「精神的な筋力」は、研修で話を聞いただけでは絶対に身につきません。実際に断られる、失敗する、悔しい思いをするといった「負荷」を、行動量を通じて何度も何度も経験することでしか鍛えられないのです。
量をこなすことは、営業としての骨格と筋肉を作り上げる、最も効果的なトレーニングなのです。
2. 机上の空論を血肉に変える「生きたデータ」を収集するため
新人研修では、素晴らしいトークスクリプトや商談のフレームワークを学ぶでしょう。しかし、それらはあくまで「地図」でしかありません。実際に道を歩かなければ、地図上のどの場所に落とし穴があり、どの道が近道なのかは永久に分かりません。
営業における「量をこなす」という行為は、この地図を自分だけのものに作り変えるための「実地調査」であり、「生きたデータ収集」です。
- 100回の電話をすれば、100通りの断られ方を収集できます。
- 20回の商談をすれば、20パターンの顧客の反応をデータ化できます。
「この業界のお客様は、価格の話をすると表情が曇るな」 「このタイミングで成功事例を話すと、身を乗り出してくるな」
こうした現場でしか得られない微細な気づきこそが、あなたの「営業センス」の正体です。センスとは、才能ではなく、膨大な量の行動から得られた「生きたデータ」を、無意識レベルで分析・判断できる能力のことなのです。
3. 自分の中の「理想の営業像」という殻を破壊するため
多くの新人は、「スマートで、雄弁で、常にお客様を魅了する」といった、ドラマに出てくるような格好いい営業像を無意識に抱いています。そして、その理想通りに振る舞えない自分に落ち込み、自信をなくしていきます。
断言しますが、そんな理想像は幻想です。
量をこなすプロセスは、この不要な「理想像」という固い殻を強制的に破壊する役割を果たします。
毎日数十件、数百件と電話をかけ、泥臭くお客様に頭を下げているうちに、「格好つけている余裕」などなくなります。必死さ、誠実さ、時には不器用さ。そうしたあなたの「素」の部分が前面に出てきます。
そして面白いことに、お客様の心を動かすのは、その取り繕わない「必死さ」や「誠実さ」であることが非常に多いのです。量をこなすことは、あなたを「本物のあなた」へと生まれ変わらせる、荒療治でもあるのです。
「ただの量」で終わらせない。成長を加速させる営業PDCAの回し方
もちろん、ただ闇雲に量をこなすだけでは、消耗するだけで質には転化しません。量を質に変えるために不可欠なのが、ご存知「PDCAサイクル」です。しかし、多くの新人はこのPDCAを誤解しています。
新人営業が回すべきPDCAは、もっとシンプルで、もっと泥臭いものです。
1. Plan(計画):1日のゴールを「数字」で決める
完璧な計画は不要です。今日のゴールを、誰が見ても分かる「数字」で決めてください。
- (例)アポイント電話:50件
- (例)新規訪問:5件
- (例)既存顧客へのフォロー連絡:10件
ここで重要なのは、この数字を「自分との約束」として絶対に守ることです。この数字を達成することが、今日のあなたの唯一のミッションです。
2. Do(実行):迷わず、考えすぎず、やり抜く
実行フェーズで最も重要なマインドセットは「今はデータ収集の時間だ」と割り切ることです。
一件一件の結果に一喜一憂しないでください。成功も失敗も、全ては夜の「Check」フェーズで分析するための貴重なサンプルです。今はただ、朝決めた数字という目標に向かって、無心でバットを振り続けてください。
3. Check(検証):1日の終わりに「5分だけ」振り返る
ここが最も重要です。1日の終わりに、たった5分でいいので、今日の行動を振り返ります。ただし、「なぜダメだったんだろう…」と漠然と反省してはいけません。
振り返るべきは、具体的な「事実(ファクト)」です。
- 断られたトークは、どのフレーズだったか?
- (例)「新サービスのご案内で…」と言った瞬間に切られた回数が多かった。
- 手応えを感じた提案は、どんな内容だったか?
- (例)競合A社の名前を出した時に、お客様の反応が明らかに変わった。
- 商談で、お客様の表情が最も動いたのはどの瞬間だったか?
- (例)導入後のコスト削減の話よりも、現場の業務が楽になる話をした時の方が、頷きが多かった。
このように、感情ではなく「事実」を記録するのです。これがあなたの資産になります。
4. Action(改善):改善点は「1つだけ」に絞る
検証で見つかった課題を、全て一度に改善しようとしないでください。必ず失敗します。
決めるべき改善点は、明日試すアクションを「たった1つ」だけです。
- (例)明日は「新サービスのご案内」という言葉を禁止し、「〇〇業界で実績の出ているコスト削減のご提案で…」から始めてみよう。
- (例)明日の商談では、冒頭5分で必ず「現場の業務で一番時間がかかっていることは何ですか?」という質問をしてみよう。
この「小さな仮説検証」を365日繰り返す。この地味で、しかし確実な一歩の積み重ねこそが、「量」を「質」へと転化させる唯一のエンジンなのです。
現代営業で誤解されやすい「量より質」という言葉の罠
最近では、SFAやCRMといった営業支援ツールが普及し、「営業も効率化が大事だ」「無駄な量は悪だ」という風潮があります。
これは半分正解で、半分は致命的な間違いです。
確かに、経験を積み、自分の「勝ちパターン」を確立した中堅以上の営業にとっては、ツールを活用して「質の高い」行動にリソースを集中させるべきです。
しかし、まだ勝ちパターンどころか、バットの振り方すら固まっていない新人営業が、最初から「効率化」や「質」を追い求めるのは、九九を覚えていない小学生にいきなり微分積分を教えるようなものです。
そもそも、何が「質の高い行動」で、何が「無駄な行動」なのかを判断するための「経験則(データ)」が、あなたの中にはまだ存在しないのです。
キャリア初期の段階で「効率化」という言葉に逃げるのは、成長の機会を自ら放棄しているのと同じです。まずは、泥臭く量をこなし、自分の中に揺ぎない「判断基準」をインストールすることに全力を注いでください。
身近な成功事例:アシスタント美咲のブレークスルー
この法則の有効性は、私一人の経験則ではありません。冒頭で少し触れた、アシスタントの美咲さんも、この「量質転化」を体現した一人です。
彼女が新人だった頃、私は彼女にたった一つ、「とにかく今は質を気にするな。今日の行動目標として決めた荷電数と訪問件数、その『量』だけを自分との約束として守り切れ」とだけ伝え続けました。
最初は半信半疑だったようですが、彼女は毎日、商談の良し悪しに一喜一憂することなく、ただひたすらに行動量をこなし続けました。その結果、ある時期を境に、お客様の反応が手に取るようにわかるようになり、面白いように成果が出始めたのです。
彼女の成功は、特別な才能によるものではなく、正しい原則に基づいた圧倒的な量の実践が生み出した、必然の結果でした。
私の原点:辞めようと思ったあの日、上司が教えてくれたこと
偉そうに語っていますが、私自身、新人時代は典型的な「売れない営業」でした。 同期が次々と初契約を上げていく中、私だけが全く成果を出せず、商談に行けばお客様から詰められ、会社に戻れば上司から詰められる。本気で「もう辞めよう」と、退職届の書き方を調べた夜もありました。
追い詰められた私が、当時の上司に「何か成果を出すためのコツはないでしょうか?」と尋ねた時のことです。
彼は私に、魔法のようなトークスクリプトや、画期的な営業手法を教えてはくれませんでした。ただ、デスクに山積みになった顧客リストを指差し、こう言ったのです。
「筒井、ごちゃごちゃ考えるな。まずはこのリストの上から下まで、全部電話しろ。話はそれからだ」
当時は「なんて無責任なアドバイスなんだ」と絶望しました。しかし、他に選択肢のなかった私は、言われた通り、ただひたすらに電話をかけ、訪問件数を増やしました。
最初の数ヶ月は、何も変わりませんでした。断られ、怒られ、自信を失う毎日。 しかし、半年が過ぎ、おそらく1万件以上の電話をかけた頃でしょうか。ある時、ふと気づいたのです。
「あ、お客様の断り文句って、だいたい3パターンしかないな」 「この質問をすると、相手は必ず黙り込むな」 「このタイミングで料金の話を切り出すと、空気が悪くなるな」
それは、雷に打たれたような衝撃でした。 これまでランダムなノイズにしか聞こえなかったお客様との対話の中に、明確な**「法則性」**が見えた瞬間でした。
この変化こそが、私にとっての**「量質転化の瞬間」**でした。 法則性が見えれば、対策が打てます。「この断り文句には、こう切り返そう」「このタイミングで、この資料を見せよう」。そうやって仮説検証を繰り返すうちに、面白いように成果が出始めたのです。
あれは才能でもセンスでもありません。膨大な量の失敗データが、私に「未来を予測する力」を与えてくれたのです。
まとめ:未来の自分への「先行投資」として、今すぐ量をこなせ
営業は「量」と「質」の両輪で進みます。しかし、キャリアをスタートさせたばかりのあなたに必要なのは、議論の余地なく**「圧倒的な量」**です。
- 量をこなすことで、逆境に負けない「営業体力」がつく。
- 量をこなすことで、机上の空論ではない「現場の知恵」が身につく。
- 量をこなすことで、あなただけの「勝ちパターン」という質的変化が生まれる。
そして、この量をベースに、毎日たった一つでも改善(PDCA)を回し続けること。これが、非凡な成果を出すための、凡人が取れる唯一の戦略です。
新人営業にとって「売れない時期」は、避けては通れない道です。 しかし、それはあなたが「才能がない」からではありません。シンプルに**「まだ量が足りていない」**という、ただそれだけのサインです。
未来のあなたが「あの時、諦めずに行動してくれてありがとう」と感謝するような、そんな密度の濃い時間を、今日から過ごしてください。
量をこなすことは、苦行ではありません。 未来の自分を助けるための、最も確実な「先行投資」なのです。
1400名規模のITベンチャー企業の営業部長・現ストラテジスト。
これまでに300名以上の営業マンの育成や営業組織の設計に携わり、商談スクリプトの構築や各業界のトップセールスの営業スキルの暗黙知を形式知にするなどの教育メソッドを体系化。
営業を「属人的な才能」ではなく「再現できる仕組み」として確立することを専門領域としている。
本サイトでは、営業力を高めたい個人や、営業教育を仕組み化したい法人に向けて、現場で成果を出すためのノウハウと知見を発信している。

