「ありがとう」と言われる即決営業 ─ 私が“詰める”のをやめてトップセールスになれた理由
はじめに:もし、あの教えがなければ、私は営業を続けられなかったかもしれない
「…今日、決めていただけますか?」
こんにちは、美咲詩乃です。 もし、あなたが営業という仕事に、少しでも誠実に向き合おうとしているなら…この言葉をお客様に告げる瞬間、胸の奥がチクリと、少しだけ痛むのではないでしょうか。
かつて私が所属していた会社は、いわゆる「即決至上主義」が当たり前の環境でした。商談の最後には、あらゆるテクニックを駆使してお客様にその場での決断を迫ることが「正義」であり、それができない営業は「力不足」だとされていました。
でも、駆け出しだった私には、どうしてもそれができなかったんです。 お客様がまだ迷いや不安を抱えているのが伝わってくるのに、それを見ないふりして、こちらの都合を押し付けてしまう。
その行為は、お客様の心を疲れさせてしまうだけじゃなくて、私自身の心も同じように、いえ、それ以上にすり減らしていくのを感じていました。
もし、あのまま「即決させなければ」というプレッシャーの中で働き続けていたら…。 きっと私は、営業という仕事そのものを嫌いになって、静かにこの業界を去っていたんじゃないかな、と思います。
でも、私はトップセールスになることができました。 そして不思議なことに、私がお客様から「即決」をいただく場面で、最後にかけられる言葉は、いつからかたった一つになっていました。
「美咲さん、ありがとう」と。
罪悪感で胸を痛めていた私が、なぜ、お客様から感謝されるようになったのか。 それは、このサイトの監修者でもある筒井さんから教わった、巷で言われる「即決営業」とは全く違う、ある一つの“考え方”との出会いが、まだ一人の営業として伸び悩んでいた頃にあったからなんです。
この記事では、私が一人の営業として、そして後にマネージャーとして、ずっと大切に守り続けてきたその考え方のすべてを、私の少し不器用な体験とともにお話ししてみたいと思います。
第1章:「どう受注するか」というプレッシャーに、私は縛られていた
多くの営業研修では、「いかにして受注するか」を教わりますよね。私もそうでした。 受注というゴールに向かって、どうやってお客様を説得して、クロージングに持ち込むか。そのためのトークスクリプトや切り返しの言葉を、毎晩、必死で頭に詰め込んでいました。
でも、思うように成果が出なくて、分厚い壁の前で立ち尽くしていた私に、当時の上司だった筒井さんは、ある日の面談で静かにこう言いました。
「美咲さん、考え方が逆だよ。『どう受注するか』を考えるのを、一度やめてみよう。僕たちが本当に集中すべきなのは、『どうすれば、失注しないか』。それだけだよ」
最初は、正直よく分かりませんでした。受注を目指さなくて、どうやって成果を出すんだろうって。 でも、筒井さんの説明は、とてもシンプルでした。
「受注の理由は、お客様の予算やタイミング、他の会社さんの状況みたいに、自分たちでコントロールできない『変数』が多すぎます。でも、失注してしまう理由は、いつの時代もほとんど変わらない。『この人は信頼できない』『費用対効果が分からない』『今じゃなくてもいいかな』。この数少ない『定数』を、一つひとつ丁寧に、先回りして取り除いていけば、最後に残るのは受注しかないと思わない?」
この言葉は、まるで魔法のようでした。 ずっと私を縛り付けていた、「受注しなきゃ」という重たいプレッシャーが、すうっと解けていくのを感じました。
そうだ、私がやるべきことは、お客様を無理やりゴールに押し込むことじゃなかった。お客様が安心して自分の足でゴールテープを切れるように、コースの上にある石ころや障害物を、私が先に走って全部拾ってあげることなんだ、って。
この教えは、その後の私の営業人生を支えてくれる、本当に大切なお守りになりました。
第2章:失注要因①「信頼」─ 私が“不快要素の徹底排除”にこだわった理由
筒井さんの教えの中で、一番私の心に響いたのが、失注の根っこにある「信頼」についてのお話でした。
筒井さんはよく、ロールプレイングゲームの例えを使ってこう話してくれました。
「どんなに素晴らしい“必殺技(トーク)”も、それを繰り出す“主人公(営業)”のレベルが低かったら、相手には全く効かないよね。『何を言うか』の前に、『誰が言うか』が大事だよ」と。
私が営業になりたての頃から、そして後輩を指導する立場になってからも、何よりもこだわってきたのが、この「誰が言うか」を最高のレベルに引き上げること。
つまり、お客様に少しでも「あれ?」って思われるかもしれない要素を、一つ残らずなくしていくことでした。
若い女性だからこそ、一瞬で信頼を勝ち取るために
今もそうですが、私がお会いするお客様はほとんどが年上で、人生経験もずっと豊富な経営者の方々ばかり。普通にしていたら、「若いお嬢さんに何が分かるの?」と思われてしまっても、仕方がなかったと思います。
だからこそ、私は誰よりも「不快に思われるかもしれない要素」をなくすことにこだわりました。
- 服装、髪型、姿勢: 派手さではなく、清潔感を。自信があるように見せるのではなく、誠実さが伝わるように、いつも背筋を伸ばしていました。
- 言葉遣い: いわゆる「若者言葉」は絶対に使いません。正しい敬語や、丁寧な言葉遣いを必死で学びました。それだけで、「君は、しっかりしているね」と、商談が始まる前にお客様の心の扉を少しだけ開けていただけることが、すごく多かったんです。
- 相槌と目線: 相手のお話を遮らず、最後まで聞くこと。驚きや共感、尊敬の気持ちを、言葉だけじゃなくて、相槌のトーンや目線の動きで伝えること。
一つひとつは、本当に小さなことです。でも、この小さな「信頼の貯金」ができていないと、どんなに素晴らしい提案も、ただの雑音としてお客様の耳を通り過ぎていってしまいます。
後にマネージャーになった私は、後輩たちに口酸っぱく言っていました。
「お客様に嫌われるのは一瞬。でも、信頼を積み上げるのは、すごく時間がかかる。だから、まずはお客様があなたの話を聞いてくれる“土俵”に上がるために、自分という商品を、誰よりも丁寧に磨きなさい」と。
第3章:失注要因②「費用対効果」─ お客様を“ひとり”にさせない技術
信頼という土台ができて、次に丁寧に取り除いていくのが、「費用対効果への不安」です。
新人だった頃の私は、プレゼンが終わるとすぐに、「いかがでしょうか?」って、お客様に判断を委ねてしまっていました。 一見、丁寧なようでいて、実はこれって、すごく無責任なことだったんですよね。「この大きな投資をすべきかどうか」という、一番重たい決断を、お客様ひとりに背負わせてしまっているんですから。
そんな時、筒井さんの研修で学んだのも、やっぱり「失注しない」という考え方でした。
お客様を、孤独にしてはいけない。 「やるか、やらないか」という対立した関係じゃなくて、「どうすれば、社長の不安をなくして、一緒にこのプロジェクトを成功させられるか」という、同じゴールを目指すパートナーになること。
トップセールスになれてから、私がいつも意識していたのは、お客様にこう問いかけることでした。
「社長、ここまでお聞きいただいて、このプランが御社の未来にとってプラスになる、ということはご理解いただけたかな、と感じています。その上で、もし今、一歩踏い出すことに何かご不安があるとしたら、それは具体的にどのような点でしょうか。その不安を解消するのも、私の大切なお仕事ですので」
こう問いかけると、お客様は初めて、「実は、本当に人が集まるか確信が持てなくて…」「この金額を、社員にどう説明すればいいか…」といった、心の奥にある本当の不安を、ぽつり、ぽつりと話してくれるんです。
第4章:私が「即決」の場面で、お客様から「ありがとう」しかもらわない理由
「信頼」という土台を固めて、「費用対効果」への不安をパートナーとして取り除く。 この二つの失注要因を完全に取り除けた時、商談は本当に自然と、あるべき場所へとたどり着きます。
あるIT企業の社長様との商談が、私の営業人生の転機になりました。 他の会社さんもいる中で、私の提案は決して一番安いものではありませんでした。一通りのご説明を終えると、社長は静かに腕を組んで、こう言ったんです。
「美咲さん、君の言うことはよく分かった。ただ、やはり決断するには勇気がいるな」
以前の私なら、きっとここで慌てて、値引きや追加のサービスをご提案していたと思います。 でも、その時の私は、筒井さんの教えを、静かに実践しました。
私:「社長、おっしゃる通りだと思います。これは、御社の未来を左右する、本当に大きなご決断です。だからこそ、私から『今日決めてください』なんて、とても言えません」
まず、お客様の気持ちを、心から肯定しました。
私:「ただ、一つだけお伝えしたいことがあります。私は、このプランが、社長が目指していらっしゃる『社員が誇れる会社作り』にとって、今、絶対に必要だと確信しています。そして、その実現のために、私自身が、御社のプロジェクトの一員になったつもりで、汗をかく覚悟があります」
そして、私の覚悟を、正直にお伝えしました。
私:「もし、社長が同じ覚悟で、私をパートナーとして選んでいただけるなら、これ以上嬉しいことはありません。ご決断は、社長にお任せします」
少しだけ、沈黙が流れました。10秒だったか、20秒だったか…。 やがて、社長はふっと顔を上げて、こう言ってくださったんです。
「…美咲さん、ありがとう。君と仕事がしたい。それで、お願いします」
この瞬間、私は確信しました。 本当の即決は、営業が“させる”ものじゃない。お客様が、ご自身の意思で“したくなる”ものなんだ、と。 そして、その決断の最後には、「買わされた」という後悔じゃなくて、「良い決断ができた」という満足感と、パートナーへの感謝だけが、温かく残るんだ、と。
まとめ:あなたの営業は、あなた自身を幸せにしていますか?
巷でよく言われる「即決営業」は、お客様だけじゃなくて、営業である私たち自身の心も、少しずつ疲れさせてしまうことがあるように感じます。それは、短期的な売上と引き換えに、長期的な信頼関係や、仕事への誇りを失ってしまう、少し悲しい行為なのかもしれません。
でも、筒井さんが教えてくれた「失注しない」という考え方に基づいたアプローチは、違いました。
まず、自分という人間を磨いて、絶対的な信頼をいただくこと。 お客様の不安に寄り添って、パートナーとして一緒に解決策を探すこと。 その結果として、お客様がご自身の意思で、感謝とともに決断してくださること。
このプロセスは、お客様を幸せにするだけじゃなくて、営業である私たち自身のことも、誇りと「やっててよかった」というやりがいで満たしてくれます。
もし、あなたが今、「即決」という言葉のプレッシャーに少しだけ苦しんでいるなら、一度立ち止まって、考えてみてほしいんです。 あなたのその営業活動は、1年後のあなたを、そしてお客様を、本当に幸せにしているでしょうか、と。
その答えが、あなたの進むべき道を、きっと優しく照らしてくれると、私は信じています。

元営業ウーマン。現在28歳。
新人時代には数字に追われて悩み、営業を辞めたいと思った経験もあるが、学びを通じて成果を伸ばし、営業の面白さに気づいた。
今は「営業をもっと楽しく、長く続けられる仕事に」という想いから、読者に寄り添った記事を執筆。
本サイトでは、営業現場でのリアルな悩みや体験談を交えながら、共感型のコンテンツを発信している。
