なぜ、あなたの商談は最後に「検討します」と言われるのか?トップセールスが必ず実践する「テストクロージング」完全攻略法

はじめに:商談の最後に「検討します」と言われる本当の理由

「素晴らしいご提案ですね。ありがとうございます。一度、持ち帰って検討させてください」

こんにちは。営業ストラテジストの筒井です。

あなたも、完璧なプレゼンができたと思った商談の最後に、この絶望的な言葉を告げられた経験はないでしょうか。手応えはあったはずなのに、なぜか契約には至らない。お客様は笑顔なのに、次のアポイントは決まらない。

これまで300名以上の営業担当者を育成する中で、ほぼ全ての営業がこの「検討しますの壁」にぶつかるのを見てきました。 そして、その9割が「最後のクロージングが弱かったからだ」と、全く見当違いの反省を繰り返しています。

断言します。あなたが商談の最後に「検討します」と言われる原因は、最後のクロージングにあるのではありません。その原因は、商談の要所要所で、お客様との「合意」を積み重ねることを怠った、極めてシンプルなミスにあります。

この記事は、私が研修で「成果を出すための最重要スキル」として教えている「テストクロージング(テスクロ)」の、本質的な意味と具体的な実践方法を、私の研修内容という一次情報に基づいて体系的に解説するものです。

巷で語られる「イエス取り」のような小手先のテクニックとは一線を画します。この記事を読み終える頃には、あなたの商談から「検討します」という言葉が消え、お客様が自らの意思で「お願いします」と言いたくなる、丁寧で、科学的な営業プロセスを完全に理解しているはずです。

第1章:「テストクロージング」に関する致命的な誤解

まず、多くの営業が成果を出せない元凶となっている、テストクロージングに関する致命的な誤解を解くことから始めましょう。

誤解①:テストクロージングとは「イエス取り」である

これが、最も多い誤解です。

「このサービスでお客様が増えたら、お喜びいただけますか?」 「コストが削減できるとしたら、魅力的だと思われますか?」

こうした、

相手が「はい」としか答えようのない、ごく当たり前の質問を繰り返すことを「テストクロージングだ」と教えている研修や書籍が後を絶ちません。 しかし、これは本来のテストクロージングとは全くの別物です。これは単なる「イエス取り」であり、いわば説得に近い行為です。

お客様は「はい」と答えながらも、心の中では「当たり前だろう」「早く本題に入ってくれ」と感じています。これでは、本当の合意形成は生まれません。

本当のテストクロージングとは「仮の最終合意」である

私が定義するテストクロージングとは、「もし、〇〇という条件がクリアされたら、この話(契約)を進めていただけますか?」

と、仮の条件を提示し、商談を次に進めて良いかを確認する「仮の最終合意」を取る行為です。

  • イエス取り: 「お客様が増えたら嬉しいですか?」→ 当たり前のことを聞いているだけ
  • テストクロージング: 「もし、この後のご提案で費用対効果への懸念が解消されたら、前向きにご導入を検討いただけますか?」→ 具体的な条件を提示し、相手の意思を確認している

この2つは、似ているようで全く非なるものです。

第2章:なぜ、テストクロージングが必須なのか?人間の脳の限界

では、なぜ商談の要所要所で、この「仮の最終合意」を取る必要があるのでしょうか。その答えは、人間の脳が持つ、ある根本的な限界にあります。

人は「複数の情報」を一度に処理できない

結論から言うと、

人間は、複数の情報を同時に、かつ正確に処理することができません。 これは、どんなに優秀な経営者であっても例外はありません。一つの事柄に納得し、それを頭の中で整理して初めて、次の話題へとスムーズに移行できるのです。

商談がうまくいかない最大の原因は、この脳の原則を無視し、

お客様の頭が混乱した状態で、一方的に話を進めてしまうことにあります。

お客様の頭の中の「天秤」をイメージせよ

私は研修で、お客様の頭の中を「天秤」に例えて説明します。

  • ダメな営業: 「商品の価値」という重りと、「支払う金額」という重りを、
    同時に天秤にドンッと乗せます。 天秤は激しく揺れ動き、お客様の頭の中は「価値と価格、どっちを先に考えればいいんだ…」「そもそも、この価値は本当なのか?」と大混乱に陥ります。 この揺れている状態が「検討します」の正体です。
  • できる営業: まず、
    「商品の価値」という重りだけを、丁寧に天秤の片側に置きます。 そして、テストクロージングで「この価値については、十分にご納得いただけましたか?」と確認し、天秤が完全に傾いた状態を確定させます。 その上で初めて、もう片方の皿に「支払う金額」という重りをそっと乗せるのです。

このように、

情報を一つひとつ切り離し、お客様の頭の中の天秤が揺れないように、一つずつ合意を積み重ねていく。 これが、テストクロージングが持つ最も重要な役割なのです。

第3章:商談を支配する「2大テストクロージング」の実践

私の営業モデルでは、商談の中に無数のテストクロージングが存在しますが、その中でも特に成果を左右する、絶対に外してはならない「2つの最重要ポイント」があります。

ポイント①:「フロントエンド商品」から「バックエンド商品」へ移行する前

多くの営業組織では、まずはお客様が導入しやすい価格帯の「フロントエンド商品(例:お試しプラン、診断サービス)」をきっかけに、本命である高価格帯の「バックエンド商品(例:年間契約、コンサルティング)」を提案するという流れを組みます。

この「フロント→バックエンド」への移行は、お客様が最も混乱しやすいポイントです。

【ありがちな失敗例】 フロントエンド商品の説明が中途半端なまま、「そして次に、弊社の本命商品なのですが…」と話を進めてしまう。 → お客様の頭の中:「待ってくれ、まだ最初の話も理解しきれていないのに…」

【成功するトーク構造】

  1. フロントエンド商品の価値を確定させる: まず、フロントエンド商品の説明を完全に行い、お客様が抱えるであろう懸念点をすべて洗い出します。
    「〇〇様、ここまでで、この『初回診断サービス』の内容自体について、何かご不明な点やご不安な点はございますか?」 「ありがとうございます。では、
    金額以外の部分で、何か懸念点はございますか?」
  2. 残る懸念を「一つ」に絞り込む: お客様の懸念が「費用対効果(本当にこの診断で元が取れるのか)」という一点に絞られたことを確認します。
    「承知いたしました。では、内容面ではご納得いただけており、残る課題は『この投資に見合うリターンがあるか』という一点のみ、という認識でよろしいでしょうか?」
  3. 仮の最終合意(テストクロージング)を取る: ここで、本記事の核心であるテストクロージングを打ちます。
    「ありがとうございます。では、もし仮に、**この後のバックエンド商品のご提案の中で、その費用対効果に関する懸念が完全に解消されるとしたら、**このお話(初回診断+バックエンド)を前向きに進めていただけますでしょうか?」

この一言を挟むだけで、お客様は安心して次の話を聞く準備ができます。そして、ここで「いや、実は決裁者の承認も必要で…」といった本当の懸念点がポロっと出てくることもあり、商談の精度を格段に高めることができるのです。

ポイント②:「金額提示」の直前

商談の最終盤面、金額を提示する前も、テストクロージングが絶大な効果を発揮します。

【ありがちな失敗例】 商品の価値を説明した後、間髪入れずに「そして、お値段は〇〇円になります!」と提示してしまう。 → お客様の頭の中:「その価値と、その金額は本当につり合っているのか?」と天秤が激しく揺れ動く。

【成功するトーク構造】

  1. 「価値」だけでクロージングをかける: 金額の話を一切せず、
    提案内容(価値)だけでお客様の意思を確認します。
    「〇〇様、ここまでが私からのご提案内容の全てです。一旦、金額のことは完全に忘れていただいて構いませんので、このご提案内容そのものについて、率直にどう思われましたか?」 「もし仮に、コストが一切かからないとしたら、この取り組みは『やってみたい』と思われますか?」
  2. お客様自身の言葉で、メリットを言語化させる: お客様が「やってみたい」と答えたら、さらに深掘りします。 「ありがとうございます。ちなみに、特にどのあたりにメリットを感じていただけましたか?」
    この質問により、お客様は自らの口で導入するメリットを語ることになります。これは、営業から一方的にメリットを伝えられるよりも、何倍も強くお客様の心に刻み込まれます。
  3. 仮の最終合意(テストクロージング)を取る: 価値への合意が完全に取れたことを確認し、最後のテストクロージングを打ちます。 「メリットを的確にご理解いただき、ありがとうございます。では、あとは『この素晴らしい価値に見合う、ご納得いただける金額であるかどうか』という、最後の一点のみがご判断のポイント、という認識でよろしいでしょうか?」

このステップを踏むことで、お客様は「価値」と「価格」を切り離して冷静に判断できます。 価値への納得感が先行しているため、後から提示される金額に対しても、「この価値なら、この金額は妥当だ」と、極めてポジティブに受け止めることができるのです。

第4章:テストクロージングをあなたの武器にするために

理論を理解しただけでは、成果は変わりません。 この強力な武器を、あなたが明日から使いこなすための心構えと実践方法をお伝えします。

勇気を持って「仮説」をぶつける

テストクロージングは、時にお客様の本音(「実は決裁権がない」「他にもっと懸念がある」など)を引き出すため、「怖い」と感じるかもしれません。しかし、その恐怖から逃げてはいけません。

商談の最後に全ての懸念が噴出する方が、よほど悲惨な結果になります。要所要所で勇気を持って「仮の最終合意」を取りにいくことで、小さなうちに問題の芽を摘み、最終的な成功確率を最大化することができるのです。

全ての商談で「必ず」実践する

この技術は、知っているだけでは何の意味もありません。

全ての商談で、意識的に、必ず実践すると決めてください。 最初はぎこちなくても、繰り返すうちに、それはあなたの血肉となり、無意識にでも実践できる強力なスキルへと昇華していきます。

まとめ:丁寧な営業こそが、最短の道である

最後に、今日の要点をまとめましょう。

  1. テストクロージングとは「イエス取り」ではなく、「仮の最終合意」を取る行為である。
  2. 人間は複数の情報を一度に処理できないため、情報を一つずつ切り分け、お客様の頭の中の「天秤」を揺らさないことが重要。
  3. 「フロントエンド→バックエンドの移行前」と「金額提示の直前」は、成果を左右する2大テストクロージングポイントである。
  4. テストクロージングを制する者は、商談を制する。

多くの営業は、成果を急ぐあまり、一つひとつの合意形成という「丁寧なプロセス」を省略してしまいます。しかし、それこそが「検討します」という遠回りを生み出す最大の原因なのです。

一見、遠回りに見えるかもしれませんが、お客様の思考プロセスに寄り添い、一つずつ丁寧に合意を積み重ねていくこと。 これこそが、お客様からの深い信頼を勝ち取り、最短で成果に至るための、唯一の王道なのです。

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