【受注率2.8倍】なぜトップ営業は「2人」で仕掛けるのか?凡人を天才に変えるユニット営業の構造設計
はじめに:あなたの「2名営業」が、ただの“頭数合わせ”で終わる理由
こんにちは。営業組織の戦略設計と人材育成を担っている筒井です。
「2名で営業に伺います」
この言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。多くの現場では、「新人研修のためのOJT同行」あるいは「大型案件だから、念のため上司が同席する」といった、どこか受動的で、補助的な意味合いで捉えられています。
しかし、私が長年の実践と300名以上の営業育成を通じて確信しているのは、真のユニット営業(2名営業)とは、そうした単なる“頭数合わせ”とは全く次元の異なる、極めて攻撃的で、科学的な戦術であるという事実です。
もし、あなたの2名営業が「先輩がほとんど話し、後輩は頷いているだけ」「結局、商談の主導権をどちらが握るか曖昧なまま終わる」といった状態に陥っているなら、それはユニット営業の持つ潜在能力を1%も引き出せていない証拠です。
断言します。正しく設計されたユニット営業は、個人のスキルという「足し算」ではなく、役割と連携による「掛け算」の効果を生み出し、商談の受注率を文字通り2倍、3倍へと引き上げる力を持ちます。
この記事は、私が研修でトップセールス候補生にのみ教えている、ユニット営業の本質的な考え方と、その具体的な実践方法を、私の研修内容という一次情報に基づいて体系的に解説するものです。この記事を読み終える頃には、あなたがこれまで「気まずいお見合い」だと思っていた2名営業が、お客様の心を掴んで離さない「劇場型プレゼンテーション」へと変貌しているはずです。
第1章:なぜ、あなたのユニット営業は機能しないのか?3つの致命的な誤解
成果の出ないユニット営業には、必ず共通した原因があります。それは、この戦術に対する根本的な誤解です。
誤解①:ユニット営業は「新人教育の場」である
最も多い誤解です。もちろん、OJTの一環としてユニット営業を活用することに意味がないとは言いません。しかし、それを主目的にした瞬間、商談の質は著しく低下します。
- 先輩の思考:「後輩に学ばせる」が目的になり、お客様への集中力が散漫になる。
- 後輩の思考:「失敗できない」というプレッシャーから萎縮し、ただの置物になる。
結果として、お客様は「研修に付き合わされている」と感じ、本来生まれるはずだった信頼関係が損なわれてしまいます。ユニット営業は教育の場である前に、お客様の課題を解決するための「最高の布陣」で臨む、真剣勝負の場でなければなりません。
誤解②:ユニット営業は「マンパワー」である
「1人より2人の方が、熱意が伝わるだろう」という、極めて精神論的な考え方です。しかし、役割分担のない2人の営業担当者が、同じ熱量で同じような話を繰り返せば、お客様にとっては**「圧の強い営業が2人に増えた」**というだけの話です。
むしろ、「どちらの話を聞けば良いのか分からない」「言っていることが微妙に違う」といった混乱を招き、不信感の原因にすらなります。マンパワーで押すのではなく、それぞれの役割が持つ専門性や視点の違いを戦略的に活用することこそが、ユニット営業の神髄です。
誤解③:「営業担当」が2人いれば良い
これが、最も陥りがちな失敗です。同じ「営業担当」という肩書きの2人が商談に臨めば、お客様には「営業マンA」と「営業マンB」がいるようにしか見えません。これでは、どちらが主導権を握るのか、どちらが最終的な責任者なのかが曖昧になり、プロフェッショナルな印象を与えることはできません。
ユニット営業の核心は、異なる役割を持つプロフェッショナルが「チーム」として連携することにあります。その「役割の違い」こそが、商談に深みと信頼性を与えるのです。
第2章:ユニット営業の本質 ─「1対1の対決」から「2対1の共創」へ
では、ユニット営業の本質とは何なのか。それは、商談の構造を根本から変えることにあります。
通常の商談は、「営業担当 vs 顧客」という「1対1の対決」の構図になりがちです。営業は説得しようとし、顧客は警戒します。
ユニット営業が目指すのは、この構図を「(専門家チーム) vs (顧客の課題)」という「共創」の構図へと転換することです。顧客は、自分一人では解決できない課題に対して、専門的な知見を持つチームが共に立ち向かってくれる、という心強い印象を抱きます。
この「共創」という劇場を創り上げるために不可欠なのが、次の3つの要素です。
- 役割設定(キャスティング):誰が、どの専門家を演じるのか。
- 掛け合い(シナジー):役割の違う2人が、どう連携して価値を最大化するのか。
- フォローアップ・クロージング:いかにして、チームとして顧客の決断を後押しするのか。
この3つの要素を緻密に設計することで、あなたの商談は、単なる商品説明から、顧客を魅了する一つの舞台作品へと昇華するのです。
第3章:【実践編】受注率を2倍にする「役割設定(キャスティング)」の技術
ユニット営業の成否は、商談前の「役割設定」で9割決まります。ここでは、具体的な業界を例に、強力なキャスティングのパターンを見ていきましょう。
パターン1:WEB制作会社の場合
ありがちな失敗は「営業担当」と「営業担当(上司)」で臨むことです。これではお客様には違いが分かりません。
- 最強の組み合わせ:『営業担当』 × 『現場のWebディレクター』
- 営業担当の役割: 顧客のビジネス課題(売上、利益、採用など)をヒアリングし、プロジェクト全体の目的を握る**「戦略家」**。
- ディレクターの役割: 営業が描いた戦略に対し、技術的な実現可能性や、現場視点での具体的な施策(SEO、UI/UXなど)を語る**「戦術家」**。
- 顧客に与える印象: 「この会社は、ビジネスの成功と、現場での実現性の両方を担保してくれる、信頼できるパートナーだ」
パターン2:保険会社の場合
「営業担当」と「若手の同行者」では、お客様は若手への教育に付き合わされていると感じてしまいます。
- 最強の組み合わせ:『ライフプランナー(営業)』 × 『ファイナンシャルプランナー(専門家)』
- ライフプランナーの役割: 顧客の家族構成や将来の夢、不安といった「定性的な想い」に寄り添い、共感するパートナー。
- FPの役割: 顧客の想いを実現するために、税金や資産運用、社会保障制度といった「定量的な事実」に基づき、客観的で最適なプランを提示する専門家。
- 顧客に与える印象: 「私の人生の夢と、現実的なお金の問題、その両方に寄り添ってくれる。ここまで考えてくれるなら、安心して任せられる」
パターン3:不動産会社(注文住宅)の場合
「営業担当」が一人でデザインや性能の話までしようとすると、どうしても知識が浅くなりがちです。
- 最強の組み合わせ:『営業担当』 × 『設計士 or インテリアコーディネーター』
- 営業担当の役割: 顧客の予算やライフプランを管理し、資金計画や土地探しといった「現実的な制約」をクリアにするプロジェクトマネージャー。
- 専門家の役割: 顧客の曖昧な「こんな暮らしがしたい」という想いを、具体的な間取りやデザインに落とし込み、**「夢を形にする」**クリエイター。
- 顧客に与える印象: 「予算という現実と、デザインという夢。その両方を、最高の形で実現してくれるプロ集団だ」
「服装」も役割設定の一部である
研修中、あるメンバーから「2人ともスーツだと圧がすごいのでは?」という素晴らしい質問がありました。まさにその通りです。
Web制作会社の例で言えば、営業担当はきっちりとしたスーツ、Webディレクターは少しラフなジャケットスタイルや、場合によっては清潔感のあるTシャツ。この服装のコントラストが、「現場感」と「ビジネス感」の両方を演出し、それぞれの役割のリアリティを無意識のうちに顧客に伝えます。キャスティングは、商談が始まる前から始まっているのです。
第4章:【実践編】顧客を虜にする「掛け合い(シナジー)」の作り方
完璧なキャスティングができたら、次はいよいよ本番の「掛け合い」です。商談の各フェーズで、いかにして1+1を3以上の力に変えるか。WEB制作会社の例で見ていきましょう。
フェーズ1:ヒアリング
ありがちな失敗は、営業担当だけがヒアリングを進め、ディレクターは黙って聞いている状態です。
- 成功する掛け合い:
- 営業担当(戦略家)が口火を切る: 「〇〇様、本日はありがとうございます。まず、今回のWebサイトリニューアルにおける、ビジネス上の最終的なゴールはどこに設定されているか、お伺いできますでしょうか?」
- 顧客の課題を引き出す: 顧客:「やはり、新規のお問い合わせ件数を、現在の月10件から30件に引き上げたいんです」
- ディレクター(戦術家)が深掘りする: 「なるほど、お問い合わせ30件が目標ですね。ちなみに、現場の視点から一つお伺いしたいのですが、現在お問い合わせに至っているお客様は、どのようなキーワードで検索されているか、データはございますか?もし、ここの解像度が低いと、せっかくサイトを綺麗にしても、的外れな集客になってしまう可能性があるんです」
この掛け合いにより、顧客は「ビジネスの視点」と「現場の視点」という、2つの異なる角度から自社の課題を分析してもらえていると感じ、一気に信頼を深めます。
フェーズ2:プレゼンテーションと質疑応答
プレゼンは営業担当が主体で行いますが、最も重要なのはその後の質疑応答です。
- 成功する掛け合い:
- 顧客から専門的な質問が出る: 顧客:「ご提案は素晴らしいですが、このCMSを使った場合、本当にページの表示速度は担保されるのでしょうか?」
- 営業担当が、ディレクターに「パス」を出す: 「ありがとうございます。非常に重要なご質問です。その点については、実際に現場で開発を指揮しているディレクターの〇〇から、より詳しくご説明させていただけますでしょうか。〇〇さん、過去の実績から見て、このケースはどうですか?」
- ディレクターが「第三者の専門家」として答える: ディレクター:「おっしゃる通り、速度は重要な指標です。弊社の過去事例では、同様の構成で構築したA社のサイトで、GoogleのPageSpeed Insightsスコア92点を記録しています。御社の場合は、この部分の画像圧縮を徹底すれば、同等以上のスコアは十分に達成可能だと判断しています」
営業担当が自分で答えるのではなく、あえて専門家であるディレクターにパスを出す。この「第三者話法」をチーム内で行うことで、提案の信憑性とリアリティは飛躍的に高まるのです。
第5章:【奥義】詰んだ商談を覆す「フォローアップ・クロージング」
ユニット営業が真価を発揮するのが、商談の最終盤面、クロージングです。
「良い警官・悪い警官」という最強の布陣
刑事ドラマでよく見る、厳しい尋問をする刑事(悪い警官)と、優しく寄り添う刑事(良い警官)が入れ替わりで容疑者を落とす、あのシーンを思い出してください。あれを、営業のクロージングに応用するのです。
- 役割設定:
- 営業担当: 予算や契約条件を管理する「悪い警官」(詰める役)。
- 専門家(ディレクターなど): 顧客の成功を純粋に願う**「良い警官」**(寄り添う役)。
- 具体的なトーク構造:
- 営業担当(悪い警官)が決断を迫る: 営業:「〇〇様、ご提案内容は以上です。この条件で進めさせていただくか、本日中に一度ご判断をいただけますでしょうか?」
- 顧客が悩む: 顧客:「うーん、素晴らしいとは思うのですが、やはり金額が…。少しだけ考えさせてください」
- ディレクター(良い警官)が助け舟を出す: ディレクター:「〇〇様、お気持ちお察しします。(営業担当に向かって)…△△さん、ちょっと待ってください。金額の話は営業部のマターなので私が口を出すことではないかもしれませんが、〇〇様の『成功させたい』という熱意は、今日のヒアリングで私も痛いほど感じています。何とか、私達の現場としても協力できることはないですか?」
この瞬間、「営業 vs 顧客」だった構図が、「(ディレクター+顧客) vs 営業(会社)」という構図に劇的に変化します。顧客は、ディレクターを「自分の味方だ」と認識し、心を許すのです。
ユニット営業最大の強み:「仕切り直し」ができること
一人で営業していると、一度「今日決めてください」と詰めてしまい、断られたらもう後がありません。商談は決裂し、気まずい雰囲気で終わるだけです。
しかし、ユニット営業なら、この詰んだ状況をリセットできます。
- 仕切り直しのトーク例:
- ディレクター:「△△さん、少し強引すぎますよ。〇〇様が不安に思うのも当然です。(顧客に向かって)〇〇様、申し訳ありません。彼は御社の成功を願うあまり、少し熱くなってしまったようです。一度、今日の話は白紙に戻して、〇〇様が本当に懸念されている点を、もう一度私と一緒に整理しませんか?」
詰めてしまった営業担当のフォローに入り、もう一人が冷静に仕切り直す。この「役割の切り替え」ができることこそ、失注リスクを極限まで下げ、受注率を最大化する、ユニット営業最大の強みなのです。
まとめ:ユニット営業は「最高の顧客体験」を設計する技術である
最後に、今日の要点をまとめましょう。
- ユニット営業は「頭数合わせ」ではなく、顧客との関係を「共創」へと転換する高度な戦術である。
- 成功の9割は、商談前の「役割設定(キャスティング)」で決まる。自社のサービスに合わせて、最強の組み合わせを設計せよ。
- 商談中は、役割の違いを活かした「掛け合い」で、提案のリアリティと信頼性を最大化せよ。
- クロージングでは、「良い警官・悪い警官」の役割を演じ分け、詰んだ商談さえも「仕切り直す」ことで受注へと導け。
ユニット営業は、小手先のテクニックではありません。それは、お客様の課題解決というゴールに向かって、あなたの会社が持つリソースを最大限に結集し、「チームとして」真摯に向き合う姿勢を示す、最高の顧客体験を設計する技術なのです。
私の教え子であり、このサイトの運営を手伝ってくれているアシスタントの美咲も、かつてはこのユニット営業の考え方を実践し、スランプを脱出して大きく成長した一人です。
👉美咲さんの記事はこちら:【私の失敗談】先輩の営業同行で「置物」だった私が、たった一度の経験でプレゼンの主役になれた理由
まずは、次の商談で、あなたの隣にいる同僚を「ただの同行者」ではなく、「最高のパートナー」として捉えることから始めてみてください。その小さな意識の変化が、あなたの営業キャリアを大きく変える、最初のきっかけになるはずです。
1400名規模のITベンチャー企業の営業部長・現ストラテジスト。
これまでに300名以上の営業マンの育成や営業組織の設計に携わり、商談スクリプトの構築や各業界のトップセールスの営業スキルの暗黙知を形式知にするなどの教育メソッドを体系化。
営業を「属人的な才能」ではなく「再現できる仕組み」として確立することを専門領域としている。
本サイトでは、営業力を高めたい個人や、営業教育を仕組み化したい法人に向けて、現場で成果を出すためのノウハウと知見を発信している。