【私の体験談】なぜ、真面目な人ほど営業が上達しないのか?─ 私が「知ってるつもり」の罠から抜け出した、泥臭い練習(アウトプット)の話

はじめに:「勉強してるのに、なぜ?」と泣いていた、あの頃の私へ

「今週も、新しい営業セミナーの動画を見た」 「有名な営業コンサルタントの本も読んだ」 「トップセールスのトークスクリプトも、手に入れた」

こんにちは、美咲詩乃です。 もし、あなたが今、とても真面目に、熱心に「営業の勉強」に取り組んでいるなら… インプットするたびに「賢くなった」気がするのに、なぜか実際の商談では言葉が出てこない。お客様を前にすると、頭が真っ白になってしまう。

そんな「知っている」と「できない」のギャップに、胸が苦しくなってはいませんか?

今でこそ、私は営業コンサルタントとして、筒井さんというビジネスパートナー(かつての上司ですが)とメディアを運営していますが、プレイヤーとして駆け出しだった頃の私は、まさにその「インプット過剰」の罠に、どっぷりとハマっていました。

真面目だけが取り柄だった私は、成果が出ない理由を「知識が足りないからだ」と信じて疑いませんでした。

だから、週末は営業セミナーに通い、平日の夜は本を読み漁る。スマホには営業系のアプリや学習動画が溢れ、「インプット」することに全ての時間を捧げていたんです。

でも、皮肉なことに、勉強すればするほど、成績は上がらない。 「知っている」ことが増えるたびに、「それができない自分」が浮き彫りになって、どんどん自信を失っていく…。

「こんなに頑張っているのに、どうして?」

夜、一人暮らしの部屋で、誰にも見せることのないロープレ資料を握りしめて、静かに涙した夜は一度や二度ではありませんでした。

(あの頃の「つらさ」の正体については、こちらの記事でも詳しくお話ししています:【もう辞めたい】営業がつらい…スランプとノルマ地獄から抜け出した私の方法

この記事は、かつての私と同じように、真面目さゆえに「知ってるつもり」の沼で溺れそうになっているあなたへ送る、私の実体験です。

私がどうやってその苦しい沼から抜け出し、「できる」ようになるための、本当に泥臭い「練習(アウトプット)」と出会い、変わることができたのか。 その全てを、正直にお話ししたいと思います。


第1章:「インプット過剰」という、真面目な人が陥る“病”

なぜ、私はあんなにも「インプット」に依存してしまったのでしょうか。 それは、インプットが「やっている感」を手軽に与えてくれる、一種の“逃げ道”だったからだと、今は分かります。

インプットは「受動的」で、傷つかない

営業セミナーに参加したり、本を読んだりする行為は、基本的には「受動的」です。 講師の話を聞き、「なるほど」と頷く。本を読み、「すごいテクニックだ」と感心する。

そこには、お客様からの「NO」も、上司からの厳しいフィードバックもありません。 だから、傷つくことがないんです。

でも、新しい知識を得るたびに「成長している」という錯覚だけは得られる。当時の私にとって、それはとても都合の良い「頑張っているフリ」でした。

「知ってるつもり」のプライドが邪魔をする

厄介なことに、インプットを重ねると、「自分は他の人より知っている」という、小さなプライドが芽生えてきます。

商談がうまくいかなくても、「お客様が悪かったんだ」 ロープレで注意されても、「あの人は、この最新の理論を知らないんだ」

そんな風に、心の中で言い訳を作っては、自分の「できなさ」から目をそらし続けていました。 知識が、自分を守るための“鎧”になってしまっていたんですね。

アウトプット(練習)から逃げ続けた日々

当時の私にとって、一番怖いこと。 それは、**「ロープレ(営業練習)」**でした。

ロープレは、「できない自分」が白日の下に晒される、強制的なアウトプットの場です。 インプットした知識が、いかに自分のものになっていないか、思い知らされるからです。

「美咲さん、今、お客様の反応を見てなかったよね」 「その切り返し、本に書いてあったこと、そのまま読んでない?」

先輩からの的確なフィードバックは、私の小さなプライドを粉々に打ち砕きました。 それが怖くて、私は次第に「資料作成が忙しくて…」などと言い訳を作っては、ロープレから逃げるようになっていきました。

インプットだけを繰り返し、「知ってるつもり」の鎧を厚くする。 でも、現場では何もできない自分に絶望する。 まさに、自ら作り出した悪循環に陥っていたんです。


第2章:私を変えた、筒井さんの「自転車に乗れる?」という言葉

そんな私の姿を、静かに見ていたのが、当時の上司だった筒井さんでした。

ある日、また商談に敗れて落ち込んでいる私を、筒井さんは面談に呼び出しました。 「また、インプットの重要性を説かれるのかな…」と身構えていた私に、彼は全く予想外の質問を投げかけたんです。

「美咲さん、自転車って、乗れる?」

「え…? はい、一応乗れますけど…」 意味が分からず戸惑う私に、彼は静かに、でもハッキリと続けました。

「じゃあ、自転車の乗り方の本を100冊読んだら、乗れるようになると思う?」 「…いいえ、思わないです」

「だよね。じゃあ、美咲さんは今、自転車に乗れない人の前で、『ハンドルをこう持って、ペダルをこう漕いで…』って、自転車の乗り方の“理論”を、必死で説明しようとしてる。自分が一度も乗れたことがないのに」

頭をガツンと殴られたような衝撃でした。

「美咲さんが今やってるインプットは、全部それ。知識としては正しい。でも、一度も“漕いで”ない。転んでもいない。だから、お客様の心なんて動かせるわけがないんだよ」

彼は、このサイトの理論記事(そのロープレ、時間の無駄。─ 研修効果を「結果」に変える、アウトプットの科学)でも解説している、「運動性記憶」の話をしてくれました。

営業スキルは、「知識」ではなく、「自転車に乗る」のと同じ「運動」なんだ、と。

「話す」のは口の筋肉の運動。 「表情」は顔の筋肉の運動。 「聞く姿勢」は体の使い方の運動。

これらは、本を読んでも絶対に身につかない。 **実際に体を動かし、筋肉に覚え込ませる「アウトプット(練習)」**を、インプットの何倍も、何十倍も繰り返して、初めて「無意識にできる」ようになる。

そして、彼は私に「インプット3:アウトプット7」という黄金比を教えてくれました。

「1つインプットしたら、満足しないで、最低でも3回はアウトプット(練習)する。まずは、そのサイクルを徹底してみて」

この瞬間、私は「知識が足りない」という呪いから、ようやく解放された気がしました。 私が足りなかったのは、知識じゃない。 ただひたすらに、「漕ぐ練習」だったんだ、と。


第3章:私の泥臭くて、恥ずかしかった「アウトプット」練習法

その日から、私の「本当の営業練習」が始まりました。 それは、スマートなセミナーとは程遠い、とても泥臭くて、恥ずかしいことの連続でした。

筒井さんの記事では、5つの実践的なトレーニング法が紹介されていますが、当時の私が特に衝撃を受け、そして効果を感じた「アウトプット練習」は、次の3つです。

①【衝撃】「自分の声」の録音 ─ 弱々しい声の自分との対面

まず筒井さんに命じられたのは、「自分の商談(ロープレ)を、スマホのアプリでいいから全部録音して、自分で聞くこと」でした。

(今でこそ「営業 アプリ ロープレ」などで検索すると色々なツールがありますが、当時は本当にシンプルなボイスレコーダーでした)

「何を話しているか」をチェックするためだと思い、私は軽い気持ちで再生ボタンを押しました。

「……え、これ、誰…?」

スピーカーから聞こえてきたのは、私が思っていた「私」の声とは似ても似つかない、弱々しくて、少し甲高くて、自信なさげに早口でまくしたてる、知らない人の声でした。

「えー」「あのー」という口癖の多さ。 お客様の言葉に、食い気味にかぶせる相槌。 重要な場面で、焦ってどんどん小さくなる声。

愕然としました。 プライドも何も、あったものではありません。恥ずかしくて、すぐに停止ボタンを押したくなったほどです。

「知ってるつもり」だった私。 でも、現実はこれでした。 これが、お客様が聞いている、私の「本当の音」だったんです。

私は、その日から、自分の声を毎日録音しては聞く、という練習を始めました。 お手本となる先輩の録音データと、自分の録音データを、何度も何度も聞き比べる。

「この先輩は、大事な言葉の前に『間』を置いている」 「私は、その『間』が怖くて、言葉で埋めようとしてしまっている」

この「自分の現実」を直視することから、私のアウトプットは始まりました。

②【模倣】「完コピ」ロープレ ─ “私らしさ”を捨てた日

次に始めたのが、「トップセールスの完コピロープレ」でした。

当時の私は、「自分らしい、誠実な営業がしたい」という想いだけは強く持っていました。だから、先輩のトークをそのまま真似ることに、強い抵抗があったんです。

「こんな機械みたいな話し方、私らしくない…」

でも、筒井さんは「最初は『私らしさ』なんて捨てろ」と言いました。 「型ができていないのに、個性を出そうとするからおかしくなる。まずは、自転車にまっすぐ乗るための『型』を、体に叩き込め」と。

私は、観念しました。 先輩の商談動画を、それこそ0.5倍速にして、セリフ、間の取り方、声のトーン、お客様が頷いた時の表情、ジェスチャーの手の動きまで、一言一句、すべてを真似る練習を、一人で会議室にこもって繰り返しました。

それは、本当に「練習」というより「模倣」でした。 最初は、ぎこちなくて、棒読みで、まるで学芸会のようでした。 でも、それを録画して、またお手本と見比べる。

「あ、この時の目の動きが違う」 「相槌の深さが足りない」

そんな、自分でも「細かすぎる…」と思うような修正を、来る日も来る日も続けました。

③【手書き】「書き起こし」─ 脳に刻み込む、一番地味な練習

そして、もう一つ。 「タイピングじゃダメだ、手で書け」と言われたのが、「トークスクリプトの書き起こし」でした。

優れた商談録音を聞きながら、それを一字一句、ノートに書き起こしていくんです。 一見、一番地味で、非効率に見えるかもしれません。

でも、これが「運動性記憶」に、ものすごく効きました。 手で書く、という「運動」は、タイピングの何倍も脳に負荷がかかります。

書きながら、自然と「なぜ、ここでこの質問をしたんだろう?」「この言葉の意図は?」と、筒井さんの思考をトレースすることになるんです。

「なるほど、この伏線を張るために、ここで一回、お客様の同意を取ってるんだ…」

書くことで、ただ聞いていただけでは気づけなかった「トークの構造」が、立体的に見えてきました。


第4章:地味な練習が「私」を救ってくれた理由

正直に言って、これらの練習は、全く楽しくありませんでした。 華やかなセミナーで「いい話を聞いた!」と高揚するのとは真逆の、地味で、孤独で、自分の「できなさ」を毎日突きつけられる、苦しい作業でした。

何度も「もう、インプットしてる方が楽だ」と逃げ出したくなりました。

でも、なぜ私がそれを続けられたのか。 それは、2つのことに気づいたからです。

①「目的」が、地味な作業に意味を与えてくれた

一つは、「何のために営業をしているのか」という目的に立ち返ることができたからです。 インプットに逃げていた頃の私は、「成績を上げる」という目的すら見失い、「勉強することで安心したい」という、自分本位な状態でした。

(この「目的」を見失うことの怖さについては、こちらでもお話ししています:「何のために?」を見失った営業は、必ず“折れる”。私がドン底で気づいた「目的」という最強の武器

でも、筒井さんの指導で「練習(アウトプット)」を始めた時、私の目的はシンプルになりました。 「お客様の『分からない』を、『分かった』に変えるため」 「私の弱々しい声のせいで、お客様を不安にさせないため」

そう思うと、地味な練習の一つひとつが、「お客様に安心感を届けるための作業」として、意味を持ち始めたんです。

②「習慣」が、感情に左右されない自分を作ってくれた

もう一つは、「練習」を**「毎日の習慣(ルーティン)」**に組み込んだことです。

「やる気があるから練習する」のではなく、「歯を磨くのと同じだから、練習する」。 私は、毎朝30分、必ず自分の声を録音して聞くこと、そしてトップセールスの完コピロープレを1回だけやること、と決めました。

(私がどうやって、地味な練習を「習慣」にしていったか、その具体的な方法はこちらの記事にまとめています:トップセールスの「朝の習慣」は、なぜあんなに地味なのか?─ 私が実践した“勝手に”成果が出るルーティン化の秘密

習慣にしてしまうと、不思議なことに、あれほど感じていた「恥ずかしい」「やりたくない」という感情が薄れていきました。 ただ、淡々とやる。 その淡々とした繰り返しが、私の血肉になっていきました。


まとめ:「上達」とは、華やかなインプットではなく、泥臭いアウトプットの先にある

「インプット3:アウトプット7」の生活を始めて、3ヶ月が経った頃。 私は、自分が変わったことに気づきました。

ロープレの録音を聞き返した時、あんなに嫌だった自分の声が、少しだけ「落ち着いて」聞こえるようになっていたんです。 「えー」「あのー」という口癖が、明らかに減っていました。

そして、お客様との商談でした。 いつもなら頭が真っ白になっていた場面で、完コピロープレで体に叩き込んだ「型」が、考えるより先に、自然と口から出てきたんです。

お客様が、私の言葉に、深く頷いてくれました。 あの瞬間の、心臓が温かくなるような感覚を、私は一生忘れません。

「上達」とは、華やかな営業セミナーで得られるものではありませんでした。 それは、自分の「できなさ」と向き合い、恥ずかしい思いをしながら、地味な練習(アウトプット)を淡々と繰り返した、その先にあるものでした。

もし、今あなたが、かつての私のように「勉強しているのに、成果が出ない」と悩んでいるなら。 インプットする手を、一度だけ止めてみてください。

大丈夫。知識は、もう十分すぎるほど持っています。

今、あなたに必要なのは、「新しい知識」ではありません。 その「知っている知識」を、「できるスキル」に変えるための、ほんの少しの「泥臭い練習」だけです。

あなたのその真面目さは、決して間違っていません。 そのエネルギーを、インプTプットからアウトプットに少しだけ振り向ける勇気が、あなたの明日を、きっと変えてくれると、私は信じています。

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